「何だい――」
と受答え、自分の声は苦りきったつもりでも、いつしか、甘ったるい、舌たるいものになっている。
癪だ。
お絹は、神尾のそんな気分を知るや知らずや、
「あのねえ、駒井能登守様――あの方、このごろ、どうしていらっしゃるでしょう、御様子をお聞きにならない?」
「うむ、駒井か」
と神尾が、こうと言われて何となく胸を圧《お》されるように思いました。ここで突然、駒井の名を聞くことは甘ったるいことではない。忘れていた古創《ふるきず》が不意に痛み出して来たような思いで、
「駒井能登か、知らんなあ、その後、どうしているかなあ」
「あのお方をあやまらせたのは、あなたの罪ね」
「いいや、そんなこたあないよ、駒井自身の越度《おちど》だから、どうも仕方がない」
「でも、あなたがいて、あんなになさらなければ、駒井様は御無事でしたに違いないわ」
「うむ、おれのためじゃないよ、女のためだよ、駒井の奴め、あれで女にのろいもんだから、そこに隙《すき》があったんだ。隙のあったところを相手にやられたのは、相手の罪じゃない、隙をこしらえた奴の罪なんだ」
「どちらがどうか存じませんが、およそ、隙のない人間てありませんからね。駒井様の隙なんかは、同情して上げてよい隙なんでしょう。過ぎたことは仕方がありませんね。それにしてもあの方、今どうしていらっしゃるでしょう」
「イヤに今日に限って駒井に気を持つじゃないか」
「少し伺いたいことがありますから」
「ふむ、いまさら駒井に、何を聞きたい」
「あの方、たいそう洋学がお出来になるんですってね」
「うむ、そのことか。洋学、あれは出来るよ、あれが表芸なんだ、洋学だけは相当にやれると自他ともに許していたよ」
「惜しいわね」
「何が惜しい」
「それほど洋学がお出来になるのに」
「洋学なんぞは、毛唐の学問だ」
と、神尾が取って投げるように言いました。洋学が毛唐の学問であることは、神尾に聞かなくても、お絹でさえよくわかっている。
「惜しいわね、それほど洋学がお出来になるのに」
「何が惜しいんだよ」
「でも、当節、洋学がお出来になれば、お金儲《かねもう》けはお望み次第なのに」
「洋学が出来れば金儲けは望み次第? それで駒井のいないのが、宝の持腐れだというコケ惜しみか」
「そうよ、わたし、このごろ、つくづくそう思いますわ、もし、わたしに少しでも横文字が読め、達者に異人さ
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