す」
「植田丹後守を憎んでおやりなさい」
「憎みます」
「薬屋源太郎を憎んでおやりなさい」
「憎みます」
「みそぎの滝の行者を憎んでおやりなさい」
「憎みます」
「竜神八所の人を憎んでおやりなさい」
「憎みます、一人残らず憎みます、まして、あの藍玉屋《あいだまや》の金蔵という奴、室町屋という温泉宿を開いておりましたあいつを最も憎んでやりたい、あいつが、お豊をいいように致しました」
「いいえ、あの男も、それほど憎むべき男じゃないのです、かえって哀れむべき男なのです、最も同情すべき好人物なのですよ。幽霊の戸惑いは落語にもなりませんから、恨むにしろ、憎むにしろ、よく気をつけてしないといけません」
「憎い、憎い、誰もが憎い、お豊の身体《からだ》と魂とを、わたしの手から奪い取って、再び世間のなぶりものにした、すべての人を憎みます、呪《のろ》います、恨みます」
「そう言うお前さんは、真三郎さんという優男《やさおとこ》の本色を失って、どうやら、金蔵さんとやらの不良が乗りうつっているようです」
「そんなはずはございません」
「それでもそうとしか見えません、致されるものが致されてしまいました、人を呪わば
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