れたのではありません。夢の中なる夢路かなという、人生そのもののうつしのような暗示が、お銀様の枕の上で続いているのです。
動揺した湖面が平らかになって、三井寺の鐘がゴーンと鳴り響いたことに於て一幕の終りとなったかと言うに、さにあらず、静まり返った湖面の風景は暗転にもならず、引返しにもならないで、そっくりいっぱいの大道具のままに運転をしておりましたのですが、腥《なまぐさ》い風がドコからともなく吹き渡って来て、お銀様の身辺にせまると同時に、湖面湖上いっぱいに黒雲が立ち塞《ふさ》がったものですから、こんなところに長居は無用と、お銀様はそぞろ湖岸を立ち去ろうとすると、突然、湖面の一端が破れて、その穴から、河童《かっぱ》でもあるような、勢いとしては脱兎の如く、浮び出たが早いかかけめぐって、早くもお銀様の行手に立ち塞がったものがあります。
「誰だえ」
「今の、あのわたしでございます」
「おや、お前は、さきほど身の上判断を頼みに来た真三郎さんとやらではないか、お連れのお豊さんはどうしました」
「そのことでございます、あれほどしっかり結びついたものが、とうとう離れてしまいました」
「これはこれは」
「
前へ
次へ
全356ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング