やろうと、白い眼に睨《にら》んでおりますと、行燈が消えました。
闇かと見ると、その行燈の消えた隙間から一面に白い水――みるみる漫々とひろがって、その岸には遠山の影を涵《ひた》し、木立の向うに膳所《ぜぜ》の城がかすかに聳《そび》えている。昼にここから見た打出《うちで》の浜の光景が、畳と襖一面にぶち抜いて、さざなみや志賀の浦曲《うらわ》の水がお銀様の脇息《きょうそく》の下まで、ひたひたと打寄せて来たのでありました。
その湖のまんなかに、いま見た二つの物影が、浮きつ沈みつもがいている。
ははあ、今し生命判断を頼んで来た痴態の限りの二人の者、刃《やいば》で死ねずに、水で死ぬ気になったのか、愚かなる命の二人よ、とお銀様は、写し絵にうつるような湖面の一巻の終りを飽くまで見据えて、眉一つ動かそうともしません。
そのうちに、二人のもがき合った湖面の水が逆まいて、怖ろしく浪立ったのは束《つか》の間《ま》、やがて漫々とまたもとの静かさに返ると、急に闇が迫って――おりからゴーンと三井寺の鐘、あつらえたように、お銀様の夢のうちの耳にまで響き渡りました。
十五
だが、夢はそこで破
前へ
次へ
全356ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング