、まだ若々しい男の声に相違ないが、その声音《こわね》によって見ると、いかにもしおらしい、死出の旅からでもさまよい出して来たもののような、すさまじさが籠《こも》るので、お銀様の心も妙にめいりました。だが、滅多に返事を与うべきものではない。そこで、返事がないことを、外ではもどかしがっていると見えて、
「もし、後生一生のお頼みでございます、人の魂二つが、生きようか、死のうか、迷い抜いての上のお訪ねでございます、御庵主様にお願いがあって打ちつれて参りました」
そう言うのは、こんどは、うら若い女の声でしたから、お銀様の胸が安くありません。
前の声は、まだ若い男の声で、こんどのは同じほどの女の声。その世にも哀れに打叩く声音というものは、全く血を吐くような切羽《せっぱ》のうめきがあることを、聞きのがすわけにはゆきません。
それでもお銀様は、なおなんらの応対の返事を与えないでおりましたが、お銀様自身よりも、たまり兼ねたものは別室の婆やでありまして、
「どなた様ですか――何の御用でござりましたか知ら」
と言って、起き上った様子です。
婆やが立ってくれれば、何とか取仕切って帰してしまうだろう。こう
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