文章でありました。
易者としてのお銀様は、算木筮竹をもって吉凶と未来とを占《うらな》っているのではないのです。
この難解の文字を打砕かんとして苦闘をつづけているのですが、こればっかりは現実で歯が立たなかったように、夢になっても歯が立ちません。
そうして、現実の時に反抗したと同様の弾力を以て、夢で易経と取組んで、これに悩まされている自分を如何ともすることができません。
その時、庵外の夜に人のおとなうものがあって、ホトホトと柴折戸《しおりど》を打叩いている。
はて、深夜にここまで自分を訪ねて来る人はないはずだ、あるにしても、昨晩からここに宿を求め得たということは、自分も予期してはいなかったし、ここへ着いてはじめて不破の関守氏の肝煎《きもい》りの結果なのだから、いずれのところからも、深夜に使者の立つ心当りはないのです。取合わないがよろしいと、お銀様も思案をきめまして、そのまま、また卦面《けめん》に眼を落していると、
「もしもし、女易者様のお住居《すまい》は、こちら様でございましたか、夜分、まことに恐れ入りますが、思案に余りましたことがございまして、お伺い致しました」
外でするのは
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