婆さんが亡者の衣服を剥ぐことを商売とする人でなく、短冊に対して優にやさしい水茎のあとを走らせることを知る風流の心を持ち得る人種であるということがわかるだけのものです。
しかし、それほどに、小町というものの通俗にうたわれた容姿風采とは趣を異にしているけれども、彫刻そのものが凡作でない証拠には、この年になっても、どこやらに人に迫るものがある。古《いにし》えは美で人を悩殺したが、今は鬼気を以て人を襲うという凄味があるのは、小町その人の生霊《いきりょう》が籠《こも》るというよりも、彫刻師その人の非凡がさせる業に相違ない。眼の高いお銀様は、早くもこの彫刻の非凡さを見て取って、しかしてこれが小町であることに大なる共鳴を感じました。美人としての小町なんぞは語るに足らない、鬼女としての小町、小町としての本性格は、これでなければならないと、お銀様は入室の最初からその木像を愛しました。
ただ、気に入らないのは、床の間の一方に、算木《さんぎ》や、筮竹《ぜいちく》や、天眼鏡《てんがんきょう》といったようなものが置き散らされてあることで、これとても、この室の調子を破るというほどではないが、算木とか筮竹とかい
前へ
次へ
全356ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング