を営んでいるということも聞き及んでいる。到るところに幾つもの別荘を構えていて、この別荘の如きは、ホンの小附《こづけ》の一つに過ぎまいと思われる。関守氏は走井のほかには、家の建前や庭のこしらえなどにはあまり心をひかれなかったものと見えて、そのまま辞して、早くも大谷風呂の前まで到着しました。
 だらだら坂を少し上って行くと、門があり、植込がある。玄関へかかって、
「頼もう、旅のものでござるが、一風呂浴びさせていただきたい」
 しばらくは返答もなかったが、ややあって、
「お越しやす」
 ようよう現われたのは、やはり女で、しかも今度のは丸髷《まるまげ》のすごいような大年増、玄関に現われるや否や、不破の関守氏と面《かお》を合わせて、
「あら――関守の先生でいらっしゃるわ」
「やあ、これはこれはお宮さん、珍しいところでお目にかかりましたな」
 不破の関守氏が、熱海海岸の場の貫一さんのような発言をして、さすがの策士も、ちょっと度胆《どぎも》を抜かれたようでしたが、先方も相当、心臓を動揺させたと見えて、
「どうしてまあ、関守の先生、いつごろ、こんなところへ――何はともあれお上りやして……」
 十二分の
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