を寝かしたり起したりするくらいのことはやり兼ねないから、伊太夫の富といえども必ずしも気は許せない。しかし、いいことにはみな善人です。不破の関守氏は野心家なりといえども、本来、野心そのものを楽しむ、これも一種の芸術家であって、破壊と復讐とを念とする革命家ではないから、この点は充分の御安心を願っておいてよろしいのです。
とにかくに、この早手は翌日の夕方、無事に大津の石浜に着くと同時に、早くも宵闇《よいやみ》にまぎれて、町のいずれかに姿を消してしまいました。
大津の町といえども、伊太夫でさえ騒々しさを避けるくらいの時代でしたから、空気がなんとなく動揺している間へ、こっそりと上陸したこの一行は、別段、出迎えるものもなく、目ざされる憂いもなく、ほんとうに尋常な気分で着いて、尋常な気分で散じてしまったのは、一つは不破の関守氏の用意のほどもあることでしょう。
かくて不破の関守氏は、お銀様を、本陣へも、脇本陣へも、自分もろともに送り込むことをせずに、いつ、何によって、ドコへついたという形跡もないようにして、その翌日になるとお銀様は、もう長安寺山の牛塚の上、小町の庵《いおり》へ、十年住み慣れたもの
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