の釜石から再び太平洋上へ浮び出でる。船中には田山白雲、茂太郎、金椎《キンツイ》、柳田平治、お松その他の乗組は月ノ浦を出でた通りだが、釜石から新たに七兵衛が若い娘をつれて乗込む。しかもその七兵衛は、俗体入道の変った姿になっている。洋上に出た駒井船長は、北上せんか、南進せんかに迷う。この巻に、最も多く写そうとして[#「写そうとして」は底本では「写そうして」]写し得なかった京洛天地の夢は、僅かに近藤勇、伊東甲子太郎一派抗争の血雨の一段にとどまり、時代は幕末から維新に向って大きく枢軸が移ろうとする。その時代の横波を食った神尾主膳の体勢までが動揺する。時代に閑却の鐚めが芸娼論を振廻すも一興。
 それから、この巻には全く影を見せなかったものに、兵馬と福松――その道行《みちゆき》も白山に到り着かんとして着かず。横浜方面では異人館とシルクとの取引もそのままになっている――美しき銀杏加藤《ぎんなんかとう》の奥方と、梶川少年と、伊都丸少年とが、一は名古屋城下に戻り、一は阿蘇山麓に向う一条は余派の如くして、しかも従来の伏線の如く、未解決のままで農奴の巻に留まっている。
 南条力、五十嵐甲子雄の壮士は風雲の間
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