こから1字下げ]
「おれほどの馬鹿な者は、世の中にもあんまり有るまいと思う故《ゆえ》に、孫やひこのために話して聞かせるが、よく不法者、馬鹿者のいましめにするがいいぜ。
おれは妾《めかけ》の子で、それを本当のおふくろが引取って育ててくれたが、餓鬼の時分よりわるさばかりして、おふくろも困ったということだ。
それと親父が日勤のつとめ故に、うちにはいないから、毎日毎日わがままばかり言うて強情ゆえ、みんながもてあつか[#「もてあつか」に傍点]ったと、用人の利平治という爺《じい》が話した」
[#ここで字下げ終わり]
神尾は自分の事を書かれたように共鳴する点もある。
[#ここから1字下げ]
「その時は深川の油堀というところにいたが、庭に汐入《しおい》りの池があって、夏は毎日毎日池にばかり入っていた。八ツに、おやじがお役所より帰るから、その前に池より上り、知らぬ顔で遊んでいたが、いつもおやじが池の濁りているを、利平爺に聞かれると、爺があいさつに困ったそうだ。おふくろは中風《ちゅうぶ》という病で、立居が自由にならぬ、あとはみんな女ばかりだから、バカにしていたずらのしたいだけをして、日を送った。兄貴
前へ
次へ
全356ページ中289ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング