」
「別な人とは誰だ」
「そこにいるよ」
「どこに」
「そこに」
「誰もいないではないか」
「いるよ、たった一人、そこに立っているのが見えないか」
「見えない――」
「幽霊ではないか」
「戯談《じょうだん》を言うな、机竜之助だぞ」
「机竜之助がどうしたというのだ」
そこで、一同が水をかけられたような気分になったが、それもホンの通り魔、我にかえって見ると、斎藤一もいなければ、机竜之助なるものもいない。
二人は簡単なあいさつ[#「あいさつ」に傍点]だけで、早くも奥の間に向って消えてなくなったものでしょう。
これに芸術談の腰を折られた一同は、思い出したように、
「隊長の帰りが遅いではないか」
これが、彼等の本来の不安であったが、その不安な気分を紛らわす間に、話の興が副産の芸術談に咲いてしまったのを、また取戻したという形です。
そこへ、今度は、表門から、極度の狼狽《ろうばい》と動顛《どうてん》とを以て、発音もかすれかすれに、
「た、た、た、大変でござりまする、御陵衛士隊長様が殺されました、伊東甲子太郎先生が斬られて、七条油小路の四辻に、横たわっておいでになります、急ぎこの由を高台寺の
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