」
二人は、二三歩あとへ引返した。ほんの踵《きびす》をめぐらさずに、振り返れば済むだけの距離でしたが、振り返って見ると、もう、それらしい人はいずれにも見えない。いつのまにか消えてなくなっている。これより先、田中新兵衛の姿はもはや消えてなくなってしまっている。消えてなくなったのは、山崎譲と、田中新兵衛と、机竜之助だけではない、斎藤一もいつしか、橋上橋畔から姿を消してしまって、橋の真中から再び歩を踏み直しているのは伊東甲子太郎ひとりだけです。この男だけが例の酔歩蹣跚《すいほまんさん》として、全く、いい心持で、踊るが如くに踏んでいるその足許《あしもと》だけは変らない。
四十九
こうして、橋上を闊歩して戻る伊東甲子太郎の胸中は得意を以て満ちておりました。
まず第一は、新撰組との絶縁が円満に通過したことです。新撰組を脱するには死を以てしなければならないのが、無事に解決したということに彼は大きな満足を感じていました。
第二には、これによって幕府方と縁を断って、勤王方の一枚看板を掲げることができたというものである。もはや、眼のある人の目から見れば徳川幕府の時代ではない、
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