手を思案する気にもなる。
「拙者は島原へ行こうと思っているのだ」
「島原――結構」
と田中新兵衛が言下に応じました。竜之助が島原と言ったのは出まかせである。最初からそこへ目的を置いたわけではなし、そこになんらの知己ある人がいるわけではないが、今の先、島原へと誘引した白い手首があった、そのことが眼先にちらついていたものだから、つい口頭に現われたものだが、この際は自分ながらよく言ったと思った。
 今の竜之助としては、会津へ行くとも言えまい。壬生《みぶ》へ参るとも言えまい。京洛の天地に彼が名乗りかけて、草鞋を脱ごうという心当りは一つもない。ただ、島原だけは万人の家である。あすこには、いかなる人をも許して拒まない女性がいる。
 そこで二人は、無言に轡《くつわ》を並べて、薄野原《すすきのはら》を歩み出しました。行けども行けども薄野原で、京伏見への追分路が、こんなに野原続きのはずはないのに、ほとんど無限の野原つづき。しかもその前面には、たえず「柳緑花紅」の石ぶみが並び進んで離れない。ただ安心なのは、この不意打ちの旅客に、今宵はドコまで行っても殺気というものが湧いて来ないことである。昔のように、警戒
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