して、返事はあるが、あちらでは手を振る人もなければ、ひらめかす笠もあるではない。乗物はずんずんと離れて進んで、すすき野原の中へ、見えつ、隠れつ、行く手は大和、河内の山、そこへ没入してしまうげに見える。
「おーい」
竜之助は何と思ってか、突然に腰かけの石を立って、二三歩進み出し、また笠を手強く振って、
「おーい」
こんどは返事がありません。返事のないことは、もはや、さいぜんの乗物がすすき野原を打過ぎて、大和、河内の山の中へ没入してしまった証拠です。
それと知りつつ竜之助は、またも二歩と三歩と進んでみましたが、もうおとなうものは、谷川のせせらぎのほかは何もない。
茫然として、そこに立ちつくしていると、
「おーい」
今は人を呼びかけた身、今度は後ろから人に呼びかけられるらしい声がする。
「何だ」
「おーい」
「おーい」
相呼び、相答うる双方の声はまだ遠いのに、不意に竜之助の肩に後ろから手をかけた者がある。その手は軟らかい白い手でありました。
「あなた」
「誰だ」
「どちらへいらっしゃるの」
「どこへ行こうと……」
手だけは肩にかかって、声はするが姿は見えない。あまりにけったいな
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