安い。胆吹の王国で、この先生といっしょにハイキングをやったこともあれば、人生問題を論じ合ったこともある。至極イキの合う先生ではあるが、今となっては、自分を知っている人のすべてに会うことを、悪意でなく、避けたがっている。その気分をお角さんも認めたものですから、
「それもそうですね、ではあなたは道庵先生とは別の心持でいらっしゃい、お雪様だか誰だかわからないようにしてお送りしますから、蔭にはいつも両先生がついていると、心強く思っていらっしゃい」
そこはお角さんも心得ている。道庵という先生は、至極出来のいい先生ではあるけれども、何をいうにも、あのがさつ[#「がさつ」に傍点]な気象である。むやみにいい機嫌で、病人の傍でさわがれた日には、病人のためにならないこともある。且つまた、この病人は、全く素直であるだけ、それだけ油断がならない。いつまた昂奮して、再び死を急ぐような気分にならないとも限らない。心中者には特にそういう気分は有りがちで、まあよかった、人間一人を取戻したと思ってホッと安心している、その隙《すき》をねらって飛び出して本望を遂げてしまうという例もずいぶんあることですから、その辺は健斎先
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