」
「知ってる、僕も名前だけは大いに聞いている、それから最近、お角という奴が、妙に胡麻《ごま》をすっていることも知っている」
お角という奴が、胡麻をするかすらないか、そんなことはよけいなことだが、とにかく、藤原の伊太夫には相当|知音《ちいん》の間柄と見える。その点を健斎が説明して言うには、
「その藤原の伊太夫というのは、親父《おやじ》の代からの懇意で、出府の前にはよく往来したものだが、その伊太夫が今度、上方へやって来て、大谷風呂に逗留しているのだ」
「そこへ、君がまた胡麻すりに来たのか」
「よせやい、おれはこう見えたって、財閥に胡麻をするひまはないんだ、ただ、その旧知の縁によって、伊太夫から招かれたんだ。ただ招かれたんでは、そう安々と出て来るわけにはいかないが、旅中、同行の中に急病者が出来たから、枉《ま》げて都合して来て見てくれないかという急の使だから、早速やって来てみたところなのだ」
健斎が、こう言ったところを以て見ると、ますます同業者ということがわかる。同時に健斎の家は、田辺でも代々旧家の方で、相当の貫禄があるのだから、伊太夫に招かれたからと言って、そう安々とは出て来られないは
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