ませるよ」
「有難え――持つべきものは友人だ」
二人ともに、非常に砕けている。その交際ぶりを見ると、昨日や今日の間柄ではない。いい年をした二人が、全く若やいだ書生気分になってはしゃぎ出したのは、つまり、二人は書生時代に、江戸に於ける学問友達であったのです。江戸在学の間、二人は盛んに交際したものであるが、一方は江戸に留まって十八文の名、天下(?)に遍《あまね》く、一方は郷里なる山城田辺に引込んで、先祖代々の医業を継承している。その間は音信不通であったのだが、会ってみると、急に時代が三四十年も逆戻りをして、牛肉を突っついた昔に返ってしまうのも道理です。
「へえ、どうして君は、僕がここにわだかまっているということがわかったんだね」
道庵が、どっかりと坐り込んで、再び念を押すと、健斎が、
「不思議なところで聞いて来たよ、この上の大谷風呂で、君がここへ来ているということを、はからずも耳に入れたものだから、早速かけつけて来たのだ」
「大谷風呂で聞いたって、大谷風呂の誰に聞いたんだい」
「それが妙な因縁でな、順序を話すと、こうなんだよ――大谷風呂に、甲州の有名な財閥で、藤原の伊太夫というのがいる
前へ
次へ
全356ページ中214ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング