って来ているが、それも押しっぱなしで、風入れもしてなけりゃ、分類もしていねえんだから、ひとつそれを一心不乱に片づけてみてえと思っているところさ」
「そういう研究をなさるには、至極結構なところでございまして、その上に便も至極よろしく、石段を下りますともう町屋でございますから……酒の通いもちょこちょこ[#「ちょこちょこ」に傍点]」
「その便のいいところが、老人には何よりさ、お酒の通いもちょこちょこ[#「ちょこちょこ」に傍点]というやつがばかに気に入ったねえ、お前さんも洒落者《しゃれもの》でうれしいよ」
「あ、は、は、はっ、はっ」
そういうわけで、この先生が旅籠屋から移動せしめられたところは、つい一昨日までのお銀様のかりの住居《すまい》――小町塚の庵なのでありました。
三十五
道庵先生がこの庵へ移った時の庵と、お銀様が寓居《ぐうきょ》していた時の庵と、庵に変りはありませんが、中の意匠調度は一変しておりました。変らないのは、かのしょうづかの婆さんの木像のみで、書棚もしまいこまれてしまったし、算木《さんぎ》筮竹《ぜいちく》も取りのけられて見えない。「花の色は」の掛物も取
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