これがみんないっぱしの大学者のように見えて、走りついて教えを受けようとあせったものだが、さて、本当に出来るというのはなかったねえ、本当に語学の出来たという人は、日本中で五本の指まで行かなかったんだ」
「先生が、そういう語学熱の時代は幾つ頃の時代でした」
「左様、やっぱり君ぐらいの年頃さ――当時、これでも江戸に遊学していたんだ」
「江戸で、その時分の英学者は、どなたでしたかね」
「左様――蘭学で箕作阮甫《みつくりげんぽ》、佐久間象山《さくまぞうざん》などというところが大家だったね、それから黒田の永井青崖《ながいせいがい》というのがなかなか出来た、大阪には緒方洪庵《おがたこうあん》という先生がいたが、それらはみんな蘭学が主で、英学などやろうという者はほとんどなかったが、ただ一人、長崎の幕府の通訳で、森山という人が英語が出来るという評判であった。そういう門戸を張った学者ではなかったけれど、偶然にも我輩は、英学の勝《すぐ》れた友人を一人持っていたね」
「あ、そうですか、その人を御紹介していただけないでしょうか」
「あせってはいけない、それはもう二十年も昔のことだよ」
「二十年ですか……でも、か
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