して不破の関守氏は、その夜にまぎれて、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵を胆吹山に向って追い立ててしまいました。

         二十二

 がんりき[#「がんりき」に傍点]を追い立てたその翌日、不破の関守氏は、明日、客をするからと言って、大谷風呂の奥の一棟をその用意にかからせたのです。不破の関守氏が肝煎《きもいり》となって、何か相当の客をこの一棟へ招くらしい。しかも、その前準備の忙がしいにかかわらず、たいした団体の客を迎えるというわけではなく、ほんの少数の客で、しかも密談――という申入れなのでありました。
 それでも、奥の一棟を借りきって、しかも、なおさら宿の者をてんてこまいさせたというものは、明日乗込んで来るといったその客が、その晩おそくなって、ここに御入来ということになったからです。
 その晩、お客は到着したに相違ない。けれども、そのお客の何ものであったかということは、誰もほとんど気がついたものはありません。その客にはお供が二三ついて来たけれど、本客というのは、もう相当の年配で、しかるべき大家《たいけ》の大旦那の風格を備えたお人であったということは、女中たちも言うのです。
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