つけてみますから――時が遅れてはいけません、救いの手が来るまで、どっちみち、現場へ因縁をつけて置いてみることに致します」
かくてお角さんは、ゆらりと立ち上りました。
一つは新撰組へ救いの手を求むべく、一つは自身、グロテスクの晒しの現場へ出頭して、水の手の来るまで因縁をつけて置こうとの策戦らしい。
十五
お角が立ったあとで、伊太夫は考えている。お角を助けるために来たのではないが、こうなってみると、彼女のために相当の力添えをしてやらなければならぬ事態になっている。
但し、自分の力の及ぶ範囲ならば知らず、旅へ出ての身である、まして今度の旅は、人も、我も、思いがけない旅である、人に知られたくない旅の身である、彦根の家中の重役には相当|知辺《しるべ》はあるけれども、事改めて、そこへ持ち込みたくない。
だが、何とかして、側面から、お角が急を訴えている冤罪《えんざい》の者の助命をしてやらなければならぬ。新撰組なるものの威力が、果して間に合うだろうか。いずれにしても焦眉《しょうび》の急である――とりあえず、この宿の亭主からたずねて、きっかけを求めねばなるまい。
「どうも
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