くにそこへ気がつかなければならないわたしという女の頭が、こんなにまで悪い頭とは思いませんでした、旅の風に吹かれ通したために、脳味噌が少し参ったんでしょうと思います」
十四
お角はひとり呑込んで、しきりに意気込んでいる。
それから、お角が伊太夫に向って、いま京都からこの地方にまで及ぼすところの、新撰組、すなわち壬生浪人《みぶろうにん》というものの威力の、いかに強大であるかということの、たったいま、仕込み立てのホヤホヤの知識を述べ立てました。
新撰組の行動に就いては、御領主様といえども、お奉行様といえども、これに加うることはできない。当時、名立たる大藩といえども、会津といえども、彦根といえども、これには一目も二目も置く。新撰組に睨《にら》まれた以上は、公儀役人といえども、到底その私刑を免るることはできない。さしも横議横行を逞《たくま》しうする大藩の勤王浪士といえども、新撰組だけは苦手である。「恐山の巻」の百七十六回前後のところに、その威力のほどが見えている。その新撰組の威力を借りる時は、たとえ相手が大藩領であろうとも、天領であろうとも、断じて押しの利かないことは
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