は、どこの藩に属しているのかな、水口藩《みなくちはん》か、膳所藩《ぜぜはん》か――そうだとすればここの権者《きれもの》は何の誰という人か、その人に向っての手蔓《てづる》――ただし、彦根の藩中には相当の重役に知り合いがある、そうだ、あれから渡りをつけてやろうか、彦根ならば他の小藩への通りがよかろう。だがもし、いずれの藩にも属していない天領だとなると、幕府直轄のお代官だとなると、事が少々面倒だぜ、御老中差廻しのお代官に悪く出られた日には、大藩でも扱いきれないことがある――さあ、その辺を一つ考えてみないことには……」
 伊太夫は、自問自答式にこうつぶやいて、ようやく思案が深入りして行く途端に、お角さんが、急に声を上げて言いました、
「ああ、いいことがございました、ほんとに、どうしてこれに気がつかなかったんでしょう、わたしという女も、実に頭の悪い女でござんしたよ」
「何か、いい分別がつきましたか」
「大旦那様、誰彼とおっしゃるよりは、新撰組がようござんしょう、新撰組をお頼り申すのが、手っとり早くて、いちばん利《き》き目《め》がありそうでござんす」
「なに、新撰組――」
「左様でございます、とっ
前へ 次へ
全365ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング