三日間晒しの、今日明日のうちに首がコロリとは、役目を預かる奴等にも、あんまり目がなさすぎるというものだ。
そこで、お角が歯噛《はが》みをして、お手水場の床を踏み鳴らしました。
十一
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百の野郎といえども、一から十までロクでなし野郎だという限りでもない。それから後暫くあって、臭いところから這《は》い出したこの野郎は、お角親方の特別借切りの一室を一人占めにして、すっかり納まり込み、長火鉢の前で、長煙管でパクリパクリ、そうして煙を輪に吹きながら、ひとり言――
「ふ、ふ、ふ、そうら見ろ、あの女め、火のように怒り出しやがった。だから、言わねえこっちゃねえ、あいつを、ああ嗾《けしか》けて置きぁ、火の中へも飛び込むよ。あの勢いで押しかけて行った日にゃ、やにっこい役人はタジタジだぜ。何とかするよ。何とかしねえまでも、ただじゃあ首にさせねえよ」
と言うのは、つまり、自分の寸法がすっかり図に当ったことを己惚《うぬぼ》れている。いやしくも自分の子分子方であったものが、今日明日のうちに首がコロリという運命に陥っているのを、知らざあともかく、それと聞いて
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