、どこそこから立戻って、どこそこへ出かけようというのか、こっちじゃもうちゃんと心得たものなのだ。だが、そんなムダを言いてえがためにわざわざこうして臭エところに待っていたんじゃねえ――こういう辛抱もして、一言お前に知らせをしてやりてえと思うことがあればこそなんだ。と言ったところでなにもお前という女に未練未釈があって、こんな臭エ思いをしているわけじゃねえんだから安心しな。手取早く言ってしまえば、それ、お前のところにいた、あの米《よね》とか友《とも》とかいう変てこな兄いが、どうした間違えか役人にとっつかまって、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]てえ罪で、草津の辻で三日間の晒《さら》し、それが済むとやがて鋸挽《のこぎりびき》になろうてんだ。どうも、むじつ[#「むじつ」に傍点]にしてもあんまり桁《けた》が違い過ぎるようだから、何とかしてやりてえが、おれは世間の暗い身柄で、どうにもならねえ。だが、あの滅法無類の正直者が、何かの間違えでああいうことになって、今日明日のうちに首がコロリという仕儀であってみると、いかにやくざ[#「やくざ」に傍点]野郎でも、あのまま見過ごしにゃできねえよ、あの男とはお角
前へ 次へ
全365ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング