まらせることができないと観念して、しばらくお銀様の御意《ぎょい》のままに任せて置き、またせん様もあるべしと腹をきめていたのを、今ここへこうして突然に、その頼まれ主の大旦那様に見えられてみると、お角として、いささか面目ない次第のものがある。つまり、頭のおさえてのないやんちゃ娘、へたに逆に出るよりは、するようにさせて置いて、飽きの来た時分を待つに越したことはないと考えたればこそ、お角も、米友と道庵とを振替えて、しばし京大阪で気を抜いてから、またここへ出直してのこと――とだいたいそんなふうに考えて、一時お銀様の監督を敬遠することが最上の緩和と考えた次第なのですが、そのなかばへ大旦那に来られてみると、さて、どう復命をしたらよいか、さすがのお角さんも、その辺に大へん気苦労を生ぜざるを得ないで、大旦那様に会ったらば、この点、どう申しわけをしたらよかろうかと、それをとつおいつ考えてみる。
「お角さん、お前という人も、存外頼み甲斐のないお人だね、お前さんに限って、娘を引廻せると信じてお任せしたのに、娘を胆吹山なんぞへおっぽり出して置いて、自分ひとり八景めぐりなんぞは、あんまり暢気《のんき》過ぎるじゃな
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