てて実を取る、というのがあの軍法でげしてな」
[#ここで字下げ終わり]
而《しか》して、鐚のいわゆる「ラシャメン立国論」なるものは、つまり次のような論法になるのである。
露をだに厭《いと》ふ大和の女郎花《おみなへし》降るあめりかに袖は濡らさじ――なんてのは、ありゃ、のぼせ者が作った小説でげす。
拙が神奈川の神風楼について、実地に調べてみたところによると、その跡かたは空《くう》をつかむ如し、あれは何かためにするところのある奴が、こしらえた小説でげす。
事実は大和の女郎花の中にも、袖を濡らしたがっている奴がうんとある。毛唐の奴めも、女にかけては全く甘いもんで、たった一晩にしてからが、洋銀三枚がとこは出す。月ぎめということになるてえと、十両は安いところ、玉によっては二十両ぐらいはサラサラと出す。そこで、仮りに日本の娘が一万人だけラシャメンになったと積ってごろうじろ、月二十両ずつ稼《かせ》いで一年二百四十両の一万人として、年分二百四十万両というものが日本の国へ転がりこむ。これがお前さん、資本《もとで》要らずでげすから大したもんでげさあ。
得意満面で、この種の持論を唱えている鐚公は、さて改めて、何の独創的珍趣向を持ち出すか。
九十
この鐚というおっちょこちょいは、実の名は金助であるが、貴様のような奴に金《きん》は過ぎる、鐚で結構と言われて、その名に納まっている人間である。
鐚は今「ラシャメン立国論」の持論が、かねて心ある人を傾聴(?)させていることを得意としていたが、今日は改めて、それにまさる一大創案を案出したかの如く、勿体をつけて、そうしてまず神尾の前に次の如く披露しました。
「拙の案ずるには、近い将来に於て『帝国芸娼院』てえのを一つでっち上げて、世間をあっと言わせてみてえんでございます」
「ナニ、帝国――何だって?」
「帝国芸娼院てえんでげす」
「帝国はわかっているが、ゲイショウインてのは何だ」
「芸者の芸という字に、娼妓の娼という字を書きますんでげす」
「そりゃ、いったい何だ」
「そもそも、設立の趣旨てやつを申し上げてみまするてえと、本来が、毛唐というやつがまだ本当の日本を認識していねえんでげす」
「ふーん」
「日本人、ナカナカ、キツイあります、刀を使う上手アリマス、人を斬る達者アリマス、勇武の国アリマス、ただ、芸事できない、芸事で
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