したが、だんだんわかってきてみると、全く感心させられてしまうところがありますのよ。それは、あのお嬢様には、性格としてはずいぶん欠点もございますけれども、それはあの方の周囲の境遇がさせたものだということがよくわかってみますと、わたしはあのお銀様の本質は、どちらから見ても立派なものだとしか思われません。だんだんにお銀様の怖いところがなくなって、その偉いところに感心させられるようになってしまい、今ではあのお銀様の仕事のためならば、身体《からだ》を粉にしても助けたい、そのお志を成就《じょうじゅ》させてあげたいと、こんなに考えるようになりました。ですから、わたしは、もうこれから、あのお嬢様のために口説き役をつとめます、それこそ、いま先生のおっしゃる通り、誰でも、これぞと思った人はみんな誘惑してこっちへ引きよせることにはらをきめました」
「そうはらをきめられちゃあ、もう助からねえ」
道庵が悲鳴に類する声を上げるのを、お雪ちゃんが起しも立てず、
「ねえ、先生、ですから、京大阪を御見物になって後、一旦お江戸へお帰りになるならなるで、それはお留めはいたしませんが、お江戸の方をしかるべく御処分なすって、
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