せんか、誰も好んで病気になる人はありませんから、病人が出来れば、当人にもゆっくり休ませるように、その仕事は、いくらでも代ってして上げるようにできるじゃありませんか」
「そうか、それはそれでいいとしてだ、では、病人に対するお医者の方へ廻るがね、お医者をどうするんだ――なかなかこれで、十年や二十年|薬研《やげん》をころがしたって、誰にも代ってやれるという商売ではねえ――」
三十五
「ですから、その道の人はその道の人を頼まなければなりません、その道の人を頼むと言いましても、なかなか変った人でなければこういうところへは来てくれません、来てくれるような人は未熟の人か、世間を食い詰めたような人、そこへ行くと先生なんぞは、人間も変っていらっしゃるし、腕の方も大したものですから、先生のようなお方がこの胆吹王国にいらしって下さると、ほんとうに願ったり叶ったりだと思いますわ」
「こいつは見立てられたね――」
道庵は頭を丁と一つ平手で叩きました。
「ですからね、先生、お江戸の方はお弟子さんに譲って、ぜひこちらへいらっしゃいよ、ここならば京大阪は近いし、江戸へおいでになりたければ一足で
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