ゃあ間に合わねえ、キリシタンバテレンの宣教師てやつが、あっちの薬草を持込んで植えてるから、どうもいけねえよ、キリシタンバテレンは昔から道庵のお歯に合わねえのさ」
と言って、道庵先生は、薬草の中のわからないのを一つごまかしてしまいました。
 お雪ちゃんは別に、道庵先生を困らせて手柄とするために難問を提出したわけではないから、そのくらいで打切って、そのまま、道庵先生に引添うて登りにかかりましたけれども、きりっと足ごしらえをしているに拘らず、道庵の足許が甚だあぶないのは、いよいよ以て先生のハイキングが怪しいものであり、お雪ちゃんが、白骨、乗鞍、上高地の本場で鍛えた確実なステップを踏んでいることがわかります。

         三十四

 お雪ちゃんは言いました、
「ねえ、先生、あなたもこの胆吹王国の一人として、わたしたちと一緒にこの館《やかた》へ、末長くお住いになりませんこと」
「ははあ、そりぁなんしろ愚老一生涯の大事だから、そう右から左へ即答はできない。だがお雪ちゃん、お前さんという人は、わしぁ好きだね。お前さんのような娘が、しょっちゅう傍についていてくれるところならば、永住してみてもい
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