出して来ました。投げられたといっても、致命的に投げられたのではない。腕に覚えのある捕方であってみれば、受身の修練ぐらいは相当に積んでいなければならない。
百九十九
果して、いったん投げられた捕方が、暫くあって徐々《そろそろ》と身を起したのを見ると、別段、急所を当てられているとは見えません。右の手に、ちらりと十手の光を見せて、それで暫く地上に支えると共に、半身を起して、そうして、隼《はやぶさ》のように眼をかがやかして、こちらを見込んだその気合を以て見ると、投げ方よりも寧《むし》ろ投げられた方に心得がある。
そこで半身を沈めたなりで、闇仕合のような形のままで、ジリジリとこちらへ向って圧迫的に盛り返して来ました。
「御用!」
「何の御用だ!」
思うに、始終を見きわめて置いて、後ろの天水桶から飛び出して来た瞬間には、もう手軽くこっちのものとたかを括《くく》っていたのが、案外にも、相手が身をかわしたものだから、そのはずみを食って、あちらへけし[#「けし」に傍点]飛んだばかりで、米友としては、抵抗したわけでも、取って投げたわけでもないらしい。
だが、相手が相当の曲者だ
前へ
次へ
全551ページ中545ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング