型の浪人姿が、一心に釣を垂れているだけの平凡な光景でありました。

         百八十四

 米友は仰山な驚き方をしたけれども、その理由はわからないにしても、よし敵を見たからといって、そのまま退倒するような男ではない。
 忽《たちま》ち棹《さお》を取直して、真一文字に、その釣する浪人の方へ向って漕ぎよせて行きました。
 そうすると、先方も、はじめて気がついたと見えて、編笠をかたげて、こなたを見ました。こなたの驚いたのに比較して、先方ははなはだ悠長なものでありました。
 一旦、編笠をかたげてこちらを見たが、やがて、もとの通りに面を伏せて、無心な垂綸三昧《すいりんざんまい》の境地を取戻している様子です。
 そこで米友は、程近いところへ漕ぎ寄せると共に、いっちかばっちか、舟から飛び上って、そうして、何はともあれ、まっしぐらに右の垂綸の浪人の座元まで走《は》せつけて行ったものです。
 それは、釣魚三昧に耽《ふけ》る境地の人にとっては、かなり迷惑なことであったでしょう。釣は釣る人の心を統一すると共に、釣られる魚の心を集中しなければならぬ。せっかくのところを、こうどたばたと駆けつけられては、
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