よ、土方先生とたずねて来いよ」
「いやな先生――あんまり弱い者いじめをなさると、松坂屋の一件を素っぱ抜いてあげますよ」
とお角さんが言いました。

         百八十

 そうすると、土方歳三が丁と頭をうって、
「いや、どうも、古創《ふるきず》をあばかれては困るよ」
と言いますと、お角が、
「向う創ですから大丈夫ですよ」
と答えました。
「あぶないもんだ、お手柔らかに願いたい」
 この問答を見ると、土方歳三がいよいよ受身である。よっぽどこの女親方のために痛いところを押えられているように見える。
 しかし、お角も心得たものですから、それ以上には立入って冗談《じょうだん》を言いませんでした。以前のことは知らないが、今こうして一代の名士となっている以上、愛嬌の程度までの心安立てならいいが、あんまり深入りしてはいけない、一旦は驚きのあまり、打解けてみても、物の頭《かしら》となっている人には、立てるだけは立ててやらなければ嘘だという世間学が、お角を急にしおらしい女にして、
「では、今日は、これから山王様へ御参詣を致しますから、これで御免蒙ります、あんまり思いがけないところでお珍しくお行会い
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