く先々を飛び廻って、きっと取戻してお目にかけるというのだが、もうお蘭どのが信用しない。
「だから、男の口前になんぞ乗るもんじゃない、だろうと思っていましたから、あんまり乗りもしなかったけれど、でも、気を使っただけばからしい」
 お蘭どのの御機嫌が斜めなので、がんりき[#「がんりき」に傍点]は、御機嫌を見はからって二段構えを持出しました。そろそろと片手を、持って来た包へあてがって引寄せながら、
「それは、そういうわけだから、喧嘩にもならねえ、いかにもその点は、百蔵、お前さんの前へ頭があがらねえのだが、転んでも只起きるがんりき[#「がんりき」に傍点]だと思うとがんりき[#「がんりき」に傍点]が違いまさあ」
 こう言って、今や包の結び目に手をかけた。それはさきほど関ヶ原の本宿で、定九郎鴉《さだくろうがらす》にさらわれたという、伊太夫の髑髏《どくろ》の間の枕許の古代切の箱入りの包でありました。
「それはそれとしてあやまって置いて、別にこれから、御機嫌直しのお手土産を御披露に及びたい」
「何です、それは」
「何ですか、御当人もまだわからない、あけて口惜《くや》しきびっくり箱でなければお慰み」

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