富士を拝み拝み、たどり着いたお婆さんは、この人品のよい老人を見ると、恭《うやうや》しく頭を下げ、
「これはこれは徳大寺様――」
徳大寺様と言われた極めて人品のよい老人は、頭に宗匠頭巾《そうしょうずきん》のようなものをいただき、身には十徳《じっとく》を着ていましたが、侍が一人ついて、村人らしいのを二人ばかり連れて来て、お墓の掃除をさせている。
「これは女高山のお婆さん、待兼ねておりました」
と、徳大寺様がお婆さんに気軽く応対をしました。
「途中、道よりをしておりましてね、遅くなりまして相済みません、ここがそのだいに[#「だいに」に傍点]様のお墓所でございますか」
とお婆さんが、遅刻のお詫《わ》びをしながら尋ねると、人品の極めてよい老人が頷《うなず》いて、
「ああ、ここが山県大弐の墓なのだ、この通り荒れ果てて、見る影もなくなっているから、いま掃除をしてもらっているところだよ」
「それはそれは、ではひとつ、御回向《ごえこう》を願いましょうか」
掃除もあらかた済んだ時分に、徳大寺様が香花を手向《たむ》けると、お婆さんが水をそそいで、懇《ねんご》ろにそのお墓をとぶらいましたから、続いて、徳大寺様附きのお侍と、与八と、それから掃除に来た二人の百姓たちとが、手を合わせました。
「与八さん、お前、どこへお行きなさる」
礼拝が済んでから、与八に言葉をかけたのは、お墓の掃除に頼まれて来た牛久保の富作というお百姓でした。
与八も見知り越しであり、その子供を世話してやっている。そこで答えました、
「このお婆さんをお送り申しながら、ちょっと竜王まで用足しに参りました」
「そうですか、どうもいつも餓鬼共がお世話にばっかりなりまして」
「どういたしまして」
「それにまた、この節はお湯が開けて、与八さんもいよいよ忙しいでしょうね、功徳《くどく》になっていいことですよ、人助けになりますよ」
「はいはい」
「大旦那様は旅においでになったそうですねえ」
「ええ」
「いつごろ、お帰りになりやすか」
「近いうちにお帰りになるでしょうが、たまのお出先のことだから、また、何か別な御用向が起るかも知れましねえ」
「与八さんが来てから、あのお屋敷へ光がさしたと、みんなが言ってますよ」
「どういたしまして」
こんな挨拶を交している間に、徳大寺様はじめ、お婆さん、お侍、みんなお墓に対して回向礼拝を終り、さて
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