して熱心にお婆さんがたずねるくらいだから、お婆さんの血筋に近い人でもあるのだろう。
 自分には何の関係もないのだから、どうも先走る気になれないのです。
 しかし、なかなか大きな竹藪に入り込んだのですから、どこがどうか、入って見ていよいよわからなくなる。往手《ゆくて》は枯枝や、蜘蛛《くも》の巣、それに足許に竹の切口や、木の株や、凹みなどもあって、危ない。ほとんど昼なお暗い、八幡《やわた》知らずの藪のようになって、さしものお婆さんも少しひるんでいる。その時に与八がさきへ出て、
「お婆さん、この竹藪を突切って、一度むこうの竜王の土堤へ出て見ようじゃありませんか、土堤へ出て向うで聞いてみたら、知っている人があるかもしれませんよ」
「そうしましょうかね」
 お婆さんも少々|我《が》を折って、二人は一応その竹藪を突切って、あちらの土堤へ出ようということになりました。
 しかし、土堤へ出るつもりで竹藪を突切ってみたが、意外にも土堤へは出ないで、グッと田圃の眺望の開けたところへ出てしまったが、その途端に、
「あっ!」
 二人の目を射たものは、真上に仰ぐ富士の高嶺《たかね》の姿でありました。雪を被《かぶ》って、不意に前面から圧倒的に、しかも温顔をもって現われた富士の姿を見ると、お婆さんは真先にへたへたとそこに跪《ひざまず》いて、伏し拝んでしまいました。与八は土下座こそしなかったが、思わず両手を胸に合わせ拝む気になりました。
 甲斐の国にいて富士を眺めることは、座敷にいて床の間の掛物を見るのと同じようなものですが、大竹藪を突抜けて来て、思いがけない時にその姿を前面から圧倒的に仰がせられたために、二人が打たれてしまったのでしょう。
 お婆さんが山岳の感激から醒《さ》めて立ち上った時に、程近い藪の中から、真白い煙が起り、そこで人声がしましたものですから、とりあえずそちらの方へ行ってみることにしながら、お婆さんは、富士の姿を振仰いでは拝み、振仰いでは拝みして行くうちに、与八は早くもその白い煙の起ったところと、人の声のしたところへ行き着いて見ると、そこには数人の人があって、ていねいにお墓の前を掃除をし、その指図しているところの、極めて人品のよろしい老人が一人立っている。
「あれが大弐様《だいにさま》のお墓だよ」
「そうでしたかね」
「徳大寺様も来ていらっしゃる」

         九十五


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