らさがるものだから、
「いけない」
と兵馬は拒みました。
「いや、放して上げないことよ」
 これを摺り抜けて兵馬は、
「とにかく見届けて来る」
 仏頂寺、丸山の事の体《てい》を見届けに行きました。見届けるといっても、根気負けをして、名乗りかけて切抜け策を講じようという気になったのではなく、彼等の寝息の程度を窺《うかが》って、その間にここを摺り抜けてしまおうとの斥候《ものみ》の目的で兵馬は出かけたものらしい。仏頂寺、丸山といえども、兵馬にとっては親の敵《かたき》ではなし、万一見つかったら見つかった時のはらもきめて、恐る恐る草原をわけて近づいて見ると、案の如く、二人は飲み倒れて横になっている。なるほどあくどい奴等ではあるが、こうしてところ嫌わず飲んでは寝、寝てはまた起きて旅から旅をうろつく彼等の生活もはかないものだが、そこに無邪気な点も無いではないと、妙な気分に襲われながら、兵馬は少しおかしいような気持になって、少なくとも、二人のその放漫無邪気な寝顔だけでものぞきに来たつもりで、もう一歩近づいた時に、ぷんと血の香《か》を嗅ぎました。
 無邪気に酔倒しているのではないことを直感しました。
 
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