同時に、丸山勇仙も動かなくなりました。
十七
それを遠く、物蔭にうかがっていた女が言いました、
「ごらんなさい、いい気じゃありませんか、男同士ふたり水入らずで、峠の上で飲めよ唄えと、さんざん騒いだ揚句、とうとういい心持で寝込んでしまいましたよ」
兵馬もまた、そうだと信じている。このかなり隔たった距離の点からうかがっていると、二人の挙動は、万事いい気持ずくめとしか見えなかったものです。
紅葉を焚いて、酒と松茸をあたためて食べながら、出まかせの太平楽を並べて、それが相当に並べつくされた後、ところを嫌わず、いい心持で寝そべってしまったのだと見るよりほかには見ようがなかったのです。何故に生きねばならないかの疑問と、これより先へは一寸も歩けない倦怠が二人を悩まして、その間に受け渡された、憂鬱きわまる問答の声は、決してここまで届かなかったものですから、兵馬も、
「暢気《のんき》千万な奴等だ――ああなると、全く箸《はし》にも棒にもかからぬ」
「でも、可愛らしいところがあるじゃないの、人間はアクどいけれども、ああして行きあたりばったりに酔っては寝、寝ては起き、起きては旅――
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