を持っている二人であることはたしかなのですが、この品川砲台を冷笑する見識を持っているというものが、必ずしもこの二人に限ったものではない、相当に届く眼識を以ている者にとっては、あれは失笑の材料でないということはなかったのですから、神尾もあながち、それを憎みはしなかったが、この二人の者の正体にいたっては、ちょっと見当がつき兼ねたのであります。商人の方は浜を市場とする太っ腹の当世男とは見えるが、身分あるらしい侍は、旗本御家人という風俗でもなし、まず相当大諸侯のお留守居といったようなところだろうか、当時のお留守居の粋《いき》なところは相当見えないでもないが、その惰弱《だじゃく》に換えるのに一種の威風を以てしているところを見れば、或いは某々の藩を代表する家老格の程度であるかも知れない。いったい、陪臣を以て人間とは見ない当時の江戸の旗本、ましてその驕慢《きょうまん》そのものに生きていると言ってよろしいほどの神尾主膳の眼から見ても、心憎いところのすまし方だ。
それを神尾は多少心憎いと思いながら、聞くとはなしにその会話が、ちょうど、すぐ卓を隔てて自分の対岸にいるものですから、聞きとらざるを得ませんで
前へ
次へ
全439ページ中381ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング