は主膳が食いおわったわけではあるまいが、十人前の椅子のうち八つは空明きになって、その一つに神尾がふんぞり返っていると、それと向い合って、少し下手《しもて》に、下手といっても床の間があるわけではないが、向って左の方に六尺もある大きな四角なガラス鏡が据えてある、そこのところから二三枚下の方の椅子に腰を下ろして追従笑いをしているところのものがある。それは、おなじみの金公という野だいこ兼|千三屋《せんみつや》の男である。そのほかには人がないから――
海の方は、ずっと黄昏《たそがれ》の色が捨て難い風光を見せているけれども、神尾はそちらに面《かお》を向けて、新月がどうのこうのと気づかいをするでもなく、そうかといって、室内にはもはや高くランプが光り出して、その光を受けた六尺大の四角なガラス鏡が、まばゆく光り出したけれども、主膳はそれをのぞいて見るでもなく、むしろ、その反射をも避けるもののように、鏡面に自分のうつることを厭《いと》うかのように、避けて座席を構えている調子がよくわかるのです。
しかし、この男、只今は、乱に到るほど酔ってはいない。酒気は充分に見えるけれども、乱に及ばない程度で食い留めて
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