「神尾主膳という奴は悪い奴ね」
「悪い、悪い、極悪人でございます」
「かわいそうね、お前は」
「お嬢様、もう、それをおっしゃって下さいますな、おっしゃらなくても、幸内の魂は、それでおびやかされ通しでございます」
「わたしが悪かったねえ、堪忍《かんにん》しておくれ」
「いいえ、お嬢様がお悪いのじゃございません、伯耆《ほうき》の安綱が悪かったのでございます」
「もう、それも言うまい。さあ、面と手をお洗いなら、これでお拭き」
「いいえ、手拭を持っておりますから」
 幸内は、最初頬かむりをしていたところの手拭を取り出して、手と、面と、足とをよく拭って、そこに置き並べた草履《ぞうり》をつっかけて、はしょっていた尻をおろしました。その途端にお銀様が井戸の流しの一方を見て、
「幸内、あれは何?」
「あれが、その、今お話の、二人の亡骸《なきがら》でございます」
「え」
 お銀様は目をみはりました。

         六十五

「あれが、さきほど兵作さんがお話しになりました、罪の男女の亡骸なんでございます」
 二人が目を合わせて注視したその井戸側の一方に、薦《こも》をかぶせて、犬か猫なんぞのように
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