、こうして弁信から、「物を承りたい」と呼びかけられた当面には、何か相当のものが存在していなければならないはずなのです。
 果して、有りました。有ってみると、かくべつ珍しいものではありませんでした。
 それは、今も言った弁信が、杖を立てて踏み止まったところから、ある僅少の距離を隔てて、荒草の間に蟠踞《ばんきょ》していたところの巨大なる切石のはざまにうずくまって、丸くなって寝ていたところの一つの動物があったのですが、それはちょうど、弁信の立っているあたりの地点の背面からは見えないのみならず、前へ廻って見たところで、丈《たけ》なす荒草と、切石というよりも巌と巌との間と言った方がふさわしいほどの、岩角のはざまにはさまって眠っているのですから、わざわざ探さない限り認められようはずがありません。且つまたこの動物は、この絶対の避難地とも安全地帯とも言える穴蔵《あなぐら》の中で、いとも快き眠りを貪《むさぼ》っているものですから、寝息とても非常に穏かなもので、昼寝の熟睡に落ちているのですが、弁信の第六感に逢ってはかないませんでした。
「モシ――お仕事中をおさまたげして相すみませんが、少々物を承りたいので
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