らこぶ》が満ちて、じだんだ[#「じだんだ」に傍点]が川原の砂地へ喰い入りました。ここで今、生活の白兵戦が始まるのだ、さあ後陣《ごじん》が続く続く。
 なだれを打って、後ろから人数が繰出して来たぞ。
 やあ、こいつは――川原いっぱいが死人《しびと》の山になるのだ、気の毒だなあ――
 どっちにも理窟はあるだろう、どっちも生死の境だからこうなったには違《ちげ》えねえが、何とか捌《さば》きはつかねえものか、両方ともに生きたいがために水が欲しいんだ、それだのに、両方は死人《しびと》の山を築いたんでは何にもならねえではないか、意地を張るというやつは、得てしてこんなもんだが、さあ、こいつはいけねえ。
 おいら一人を目の敵《かたき》にやって来たなら、まだ始末はいいが――この多勢で入乱れて混戦となったら手はつけられねえ。
 困ったなあ、弱ったなあ、ちぇっ!
 米友は歯噛みをして、じりじりして、眼をクリクリさせて、じだんだ[#「じだんだ」に傍点]を幾つも踏んでみましたけれど、足がいよいよじりじりと砂地の中に喰い入るばかりで、全く手のつけようも、足ののばしようもないことを覚《さと》らずにはおられません。
 
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