おかわいそうにね」
「うむ、かわいそうと言えばかわいそうに違えねえかも知れねえが――かわいそうというよりは、我儘《わがまま》の分子が多いね、あれじゃあかわいそうだと思っても、本当に憫《あわれ》んでやる気にゃなれめえ」
「そうねえ」
「面が傷ついたからって、心まで傷つけるには及ばねえのさ、人間は面よりは心が大事だからなあ」
ここに至ってせっかく壺におさまりそうなピントが、平凡至極の俗理に落ちてしまいました。
人間は面よりな心が大事だからね――そのくらい見え透いたお世辞はないが、また醜婦に対する慰めの言葉として、これより以上、或いは以外の慰め言葉というものはない。米友ともあるべき者が、こんな平凡極まる俗理を言い出したのは、ただ、ほんの間投詞の一種類に過ぎないことは分っていますから、お雪ちゃんを失望せしめることはなく、
「どうして、あんなにお面にお怪我をなさったのでしょうか」
「うん、そりゃあね、火傷《やけど》をしたんだ、子供の時分に火ですっかり焼き立てたんだね、面を火で焼かれたというより、火の中からあの面を拾い出したんだね、それで五体は満足なんだが、あの面だけが――ところがねえ、お雪ち
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