を明けて頼まれる方が、頼まれ心がよい――ということをお雪ちゃんが感じました。そういうことをお雪ちゃんが感じながら、二人さし向って話しているうちに、眼下の原野の中の遠方から、轟然《ごうぜん》として一発の鉄砲の音が聞えると共に、森の中から、人が蟻の子のようにこぼれ出したのを、二人とも殆んど同時に認めました。
「何でしょう」
と、まず不審を打ったのはお銀様でした。
「そうでございます、何か騒がしい様子でございます」
とお雪ちゃんも相鎚《あいづち》を打ちました。
やや遠く、鉄砲の音だけでしたら、二人ともそんなに不審がることはなかったでしょうが。人が蟻の子のように散乱したものですから、それで、何か相当に穏かならざることが起ったのではないかしらと、多少不安がらせる空気があったのです。
その時、また、さきほどこの場へお銀様が訪れない以前、お雪ちゃん一人で空想と実景にあこがれている時分に、お雪ちゃんの印象をつかまえた、あの大きな鳥――アルバトロスを知らない限り、日本の本土で見る最も大きな鳥であり、強さに於ては鳥類の世界を通じての王者であるところの、鷲《わし》の姿が、突然またあの森の中から見え出して
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