、遥かに細かい計算力を持っている様子に於て、お雪ちゃんは、このお嬢様は金銀の中に生れて来たが、金銀そのものの価値を知らないお姫様育ちの娘ではないということの、頭の働きを見て取ることができました。
 昔、三井《みつい》であったか、鴻池《こうのいけ》であったかのお嬢様が、ある時、述懐して言うことには、
「世間の人が、お金が無くって困ると口癖に言いやるけれど、いくらお金が無いと言いやる人でも、箕《み》に一杯や二杯は持っていることだろう」と。
 このお銀様は、そういった種類のノホホンなお嬢様とは全然違うということを、お雪ちゃんはちらと思い出してみました。事実、この目の前にいるお嬢様のお家というのは、三井、鴻池、奥州の本間といったような家筋に、優るとも劣らない長者でおありなさるにしても、このお嬢様こそは、鷹揚《おうよう》なところはドコまでも鷹揚ではあり得べしとも、細かいところは充分細かく眼が届き、頭が働く人柄だと思わずにはおられません。それがかえって、この際、お雪ちゃんの心を頼もしいものにしました。世間知らずのお嬢様から、無算当に大金を預かるということよりも、知るところは知り尽している人から、情
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