「そう思えばそうですけれども、物足りない思いもします」
「一日、ゆっくりおともをして、あの辺を見て歩きたいものでございます」
「そのうちに、一緒に出かけましょう、こちらの岸から船を浮べて、船でゆっくり八景めぐりをしたいものです」
「お船でしたら、それに越したことはございません、おともをさせていただきたいものでございます」
「そんなに遠くないうちに、その暇が得られるだろうと思います」
「楽しみにしてお待ち申しております」
「それから、お雪さん――」
と、お銀様が改まって呼びかけたものですから――お銀様はお雪ちゃんと呼ばず、お雪さんと呼ぶのです――そこでお雪ちゃんが、
「何でございますか、お嬢様」
「あなたにまた少し、御面倒を願わなければならないことがございます、実は、あなたにこれから勘定方を引受けていただきたいと思うのでございます。こうして工事に取りかかっておりますと、何かと入目《いりめ》を取りに来る者がありまして、いちいちわたし一人で払渡しをしたり、受取をやりとりしたりすることは容易でありませんから、その仕事をひとつ、あなたに引受けていただきたいと思います。つまり、この屋敷の勘定方、
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