二の句がつげなくさせられてしまいました。

         三

 そこで、とうとう、猛禽の子売買の路上取引は成立せず、ついにお銀様は大手の崩れ門から城跡の中に身を隠してしまいました。
 お濠外《ほりそと》に残された二人の農夫は、相変らず馬鹿な面《かお》をして、ぼんやりと、相手を呑んでしまってけろりとしている門内を見込んでいるばかりです。
 そこで、門内へ入ったお銀様の手に何物も抱えられていず、ぼんやりと取残された二人の男の中の一人の腕に、最初の通り、禽王子入りの風呂敷包が後生大事に抱えられている。
 一方は売ろうと言ってわざわざ追いかけて来、一方はいくらでも糸目なしに買おうと申し出でたらしいのに、その取引が行われずして、一方は手ぶらで門内へ入り、一方は、あっけらかんとして、物品をストックしている体《てい》は少し変です。
 しかし、その取引は取引として、お銀様が何物も持つことなくして、この城あとの大手の崩れ門から入ると、早くも戞々《かつかつ》として斧の音、鑿《のみ》の響が伝わります。
 邸内は今し、盛んな普請手入れの時と思われます。
 大手の崩れ門から入ったお銀様は、鷹揚《おうよう》
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