としたのか、また自分ももつれ合ってそれと一緒に飛んで行こうという気になったのか、その途端に自分だけがハネ返されて、後ろの岩壁へ仰向けに打ちつけられてしまいました。
そうすると、絶対的の向う岸で、
「ホ、ホ、ホ、あなたはここへ来られません、そこで見ていらっしゃい」
お雪ちゃんは眼前で、お銀様という人の肉体の怖ろしい躍動を見せられてしまいました。
その怖ろしい躍動を真似《まね》るだけの力も、妨げるだけの力もないお雪ちゃんは、歯を食いしばって、眼を閉づるよりほかはありません。
一旦つぶった眼を開いて見ると、欄干のあったと思う対岸には、鉄の棒の荒格子がすっかりはめられていて、その中は以前と同じ洞窟のようでありますけれど、白衣《びゃくえ》に尺八のすさまじい風流人の姿は見えず、大きな鳥の羽ばたきの音が聞えました。
それは昼のうちから自分たちの視覚を攪乱《こうらん》していた大鷲が――この牢の暗い中に、ただ一羽、空で見たところよりも、こうして捕われているところを見ると、五倍も十倍も大きく、獰猛《どうもう》に見えるのでしたが、その大鷲がこちらには頓着せずして、しきりに下を向いて、その鋭い嘴《く
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